【アクティビティレポート】GAPS-EES国際シンポジウム 「国境を越えたウェルビーイングの危機と危機の中のウェルビーイング」 を開催しました(2024/12/5~7)
2025年1月22日
テーマ:ウェルビーイング、災害、危機、人類学、歴史と地域研究
会 場:東北大学 知の創出センター
URL:http://www2.cneas.tohoku.ac.jp/index.html
http://www2.cneas.tohoku.ac.jp/content/files/20241115programme.pdf
https://ees-kobe.com/about/about-ees-kobe/
人間文化研究機構、グローバル地域研究プログラム(GAPS)および東ユーラシア研究 プロジェクト(EES)、東北大学東北アジア研究センター(CNEAS)、並びに東北大学災害科学国際研究所は、東北大学知の創出センターをホスト機関として「国境を越えたウェルビーイングの危機と危機の中のウェルビーイング」をテーマに、3日間にわたる国際会議を開催しました。本イベントには、香港(嶺南大学)、ヨーロッパ(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、オックスフォード大学、タルトゥ大学、ヘルシンキ大学、ヴィリニュス大学)、モンゴル(モンゴル国立大学)、アメリカ(シンシナティ大学)、および日本(京都大学、名古屋大学、大阪教育大学、国立民族学博物館、立命館大学、佐賀大学、東京大学)から、著名な学者や若手研究者が集まりました。また、本学の学生や客員教授、GAPS-EESの他のメンバーを含む30名が聴衆として参加しました。
このイベントは、2011年の東日本大震災と津波の被災地を訪れるフィールドトリップ(12月5日)から始まりました。まず、セバスチャン・ボレー准教授(国際研究推進オフィス)の案内により、津波犠牲者の追悼碑と仙台市荒浜小学校の震災遺構を見学し、津波が周囲を飲み込む前に学校の屋上に避難した職員、生徒、一部住民の成功体験とその教訓について、当時の校長が説明しました。その後、名取市閖上港地区の追悼公園を訪問し、参加者は公園内を歩きながら、震災前後の地域の歴史、追悼と復興のプロセス、そしてウェルビーイングを巡る課題について学びました。
2日目(12月6日)は、GAPS-EES参加機関による若手研究者セミナーが開催されました。午後は、本学東北アジア研究センター長であり、グローバル地域研究プログラム(GAPS)および東ユーラシア研究プロジェクト(EES)の一部であるマイノリティの 権利とメディア研究ユニットのリーダーでもある、高倉浩樹教授による歓迎挨拶から始まりました。イベントの運営には、本学東北アジア研究センターの志宝アリムトフテ助教の支援がありました。メインの活動では、本学大学院文学研究科文化人類学研究室主任の川口幸大教授が企画・司会を務めたセミナーが行われ、5名の博士研究員および大学院生による刺激的な発表が行われました。シンポジウムは川口教授によるコメントとシニア研究者との活発な議論で締めくられ、翌日の主要セミナーに向けた基盤が築かれました。研究プロジェクトに関する発表は以下の通りです。
1)「ウェルビーイングと環境との関わり:経済人類学的分析」 ロベルト・ファッキア(東北大学博士課程学生)
2)「より良い生活を目指して:中国における都市型エコパーク建設における対立と協力」 趙晨(日本学術振興会特別研究員、東京都立大学)
3)「女性の労働と志向性:バングラデシュ都市部における社会変化の形成」 鈴木亜望(神戸大学研究員)
4)「“赤衣に着替える”慣行にみる聖と俗の境界:ブータン西部における女性を事として」 川村楓子 (日本学術振興会特別研究員、関西学院大学)
5)「伝統と近代性の間を行き来する:サハ共和国における食文化」 バルバラ・パロワ(東北大学博士課程学生)
3日目(12月7日)は、4つの個別セッションからなる終日国際シンポジウムが行われました。最初のセッション「移行と変容:変化する環境におけるウェルビーイングの探求」は、内藤寛子博士(アジア経済研究所)の企画・司会のもと開催されました。このセッションでは、香港市民が求めるウェルビーイングとは何か、また中国本土や海外諸国との関係の中でそれをどのように追い求めているのかが探究されました。発表者は、香港住民の脆弱性とレジリエンスについて発表したRuby YS LAI氏(香港嶺南大学)と、政治危機における法律と幸福の関係を研究した萩原隆太氏(一橋大学)でした。このセッションでは、立命館大学の小川さやか教授からコメントが寄せられました。
第2セッション「遊牧、国境、ウェルビーイング:現代の牧畜民における危機と移動を 巡る生活戦略」は、寺尾萌学術研究員(本学東北アジア研究センター)の企画・司会のもとで開催されました。このセッションでは、牧畜民や都市住民の視点から、ウェルビーイングの追求と移動戦略がどのように実施されているか、また危機に関連する移動とウェルビーイングの可能性について議論されました。主なテーマとして、環境危機とウェルビーイングに関するアリエル・エイハーン氏(オックスフォード大学)の発表、および自然災害における協力を題材としたビャンババートル・イチンホルロー氏(モンゴル国立大学)とダニエル・マーフィー氏(シンシナティ大学)の発表が取り上げられました。このセッションでは、 中京大学の中野歩美講師が議論を活性化しました。
第3セッションでは、「災害時における障害者:移動性、福祉、社会的包摂」の問題が 2つのアジア諸国を事例として取り上げられました。このセッションでは、障害者に限らず、危機が既存の脆弱性やウェルビーイングの感覚に与える影響、また危機対応や社会全体における包摂とエンパワーメントを改善するために可能な手段について議論されました。発表者は、2015年のネパール地震後の障害者に関する研究を発表したアビゲイル・ユーエン氏(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)と、バリ島に住む聴覚障害者コミュニティにおけるCOVID-19の経験について発表した西浦まどか学術研究員(東京大学)でした。この セッションは、佐賀大学の北川慶子教授による障害者への偏見に関するコメントで締めくくられました。
第4セッションでは、「ロシアのウクライナ侵攻と先住民族のウェルビーイング」が探究されました。このセッションは高倉教授によって企画・司会され、ウクライナ戦争により ロシアの先住民族が経験した亡命の意思決定プロセスとその体験が議論されました。これらの人々の立場性と歴史を解明しながら、彼らにとってのウェルビーイングと希望の意味が 再考されました。2つのケーススタディが取り上げられ、一つは戦争への先住民族の参加についてのステファン・デューデック氏(タルトゥ大学)の研究、もう一つはトゥバ共和国の国境を越えた生活を送る少数民族の経験についてのビクトリア・ピーモット氏(ヘルシンキ大学)の研究でした。これらの発表は、大阪教育大学の井上岳彦特任准教授によるコメントを通じて、さらに議論が深められました。
シンポジウムの締めくくりとして、ボレー准教授が、ヴィリニュス大学のドナタス・ブランドシスカス氏と、大阪の国立民族学博物館でグローバル地域研究プログラム(GAPS) および東ユーラシア研究プロジェクト(EES)の責任者を務める三尾稔教授のコメントを 求めました。彼らは、参加者全員とともに、ケーススタディの多様性を共通の理論的基盤に結びつけるために、今後のイベントの開催や共同執筆を促進することを奨励しました。
文責:セバスチャン・ペンメレン・ボレー(国際研究推進オフィス)
高倉浩樹、寺尾萌、志宝アリムトフテ(東北大学東北アジア研究センター)
内藤寛子(アジア経済研究所)
川口幸大、越智郁乃(東北大学大学院文学研究科・文学部文化人類学研究室)